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大阪地方裁判所 平成5年(わ)4015号 判決

本籍

奈良県桜井市大字三輪五〇七番地

住居

奈良県桜井市大字金屋二七八番地の八

無職

小野博史

昭和一三年一月一日生

右の者に対する法人税法違反、業務上横領被告事件について、当裁判所は、検察官室田源太郎、弁護人増井俊雄各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役五年六月に処する。

未決勾留日数中三三〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪府東大阪市荒川三丁目一一番一八号(登記簿上の住所は同市荒川三丁目一〇番七号)に本店を置き、パチンコ機器製造販売業を営む株式会社藤商事(平成三年三月から資本金四九八〇万円、以下「藤商事」という。)に昭和五八年ころから経理課長、平成三年一月から経理部長として勤務し、同社の現金・預金の管理保管等の業務に従事するとともに、経理部長に昇進してからは同社の経理責任者として経理・決算業務を掌理していたものであるが、

第一  別紙(一)犯罪一覧表記載のとおり、平成元年一一月一三日から平成五年九月二〇日までの間、二一四回にわたり、同表中払戻日及び横領日欄記載の日に、同市足代二丁目二番二三号所在の第一勧業銀行東大阪支店の藤商事名義の普通預金口座及び当座預金口座から同表中払戻金額欄記載の金額を、同表中横領方法欄記載の方法で、払戻を受け又は払戻手続きをなして同社のために業務上預かり保管中、同表中払戻日及び横領日欄記載の日ころ、前記第一勧業銀行東大阪支店又はその付近において、ほしいまま、自己の用途に費消する目的で同表中横領金額欄記載の金額合計五億五三七八万七八四五円を横領し

第二  当時、藤商事の代表取締役として業務全般を統括していた松元道子と共謀の上、同社の業務に関し、同社の法人税を免れようと考え、別紙(二)修正損益計算書記載のとおり、平成四年四月一日から平成五年一月三一日までの事業年度における同社の実際の所得金額が一〇〇億四七九五万一六五五円で、これに対する法人税額が三七億六二二六万〇六〇〇円であった(別紙(三)税額計算書参照)にもかかわらず、売上の一部を除外するなどの行為により、右所得の一部を秘匿した上、同年三月三一日、同市永和二丁目三番八号所在の所轄東大阪税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の総所得金額が二五億五〇〇九万八六八七円で、これに対する法人税額が九億五〇五六万五八〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、別紙(三)税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税二八億一一六九万四八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

(注) 括弧内の漢数字は、証拠等関係カード記載の検察官請求番号を示す。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官調書〔一九一ないし一九三、一九八、一九九、二〇五〕

一  松元道子の検察官調書〔一二九〕

一  森本登己の検察官調書〔一三〇〕

一  電話聴取書〔一二六〕

一  報告書〔一六二〕

一  捜査報告書〔一三六、一五九、一六一〕

一  捜索差押調書謄本〔一五五〕

判示第一の別紙(一)犯罪一覧表番号一ないし一〇八の事実について

一  被告人の検察官調書〔二〇四〕

一  捜査報告書〔一四一〕

同番号一ないし二九の事実について

一  被告人の検察官調書〔二〇〇〕

一  捜査報告書〔一四三〕

同番号三〇ないし五九の事実について

一  被告人の検察官調書〔二〇一〕

一  捜査報告書〔一四四〕

同番号六〇ないし八五の事実について

一  被告人の検察官調書〔二〇二〕

一  捜査報告書〔一四五〕

同番号八六ないし一〇八の事実について

一  被告人の検察官調書〔二〇三〕

一  捜査報告書〔一四六〕

同番号一〇九ないし二一四の事実について

一  捜査報告書〔一二七〕

同番号一〇九ないし一三四の事実について

一  被告人の検察官調書〔一九四〕

一  捜査報告書〔一三二〕

同番号一三五ないし一六四の事実について

一  被告人の検察官調書〔一九五〕

一  捜査報告書〔一三三〕

同番号一六五ないし一九五の事実について

一  被告人の検察官調書〔一九六〕

一  捜査報告書〔一三四〕

同番号一九六ないし二一四の事実について

一  被告人の検察官調書〔一九七〕

一  捜査報告書〔一三五〕

同番号九、一四九、一五〇、一五三ないし一五五、一五八、一六〇ないし一六二、一七一、一七三、一七六、一七七、一七九、一八〇、一八二、一八四、一八七、一八九、一九一、一九三、一九七ないし一九九、二〇五、二〇七、二一一、二一四の事実について

一  査察官調査書〔一三一〕

判示第二の事実について

一  被告人の検察官調書〔一一六ないし一二二〕

一  松元道子の検察官調書〔一〇六ないし一一四〕

一  左古保〔七三〕、鹿野直樹〔八三〕、片山茂〔八四〕及び田中精之〔九九〕の各検察官調書

一  山崎信一〔六四〕、直江正幸〔六五〕、永田和政〔六六〕、井上孝司〔六七〕、山田千賀子〔六九〕、原山里子〔七〇〕、松下智人〔七一、七二〕、土谷敬一〔七七、七八〕、土谷かず子〔七九、八〇〕、大江裕〔八一〕、松元邦夫〔八六、八八ないし九二〕、笠井偉樹〔九三〕及び仲利治〔九四〕の各質問てん末書

一  査察官報告書〔一四、一七、二二、二〇七(謄本)〕

一  査察官調査書〔七ないし一三、一五、一六、一八ないし二一、二三ないし三三、三七〕

一  証明書〔二、四、五〕

一  登記簿謄本〔一〇〇、一〇一〕及び閉鎖役員欄用紙謄本〔一〇二〕

一  「所轄税務署の所在地について」と題する書面〔六〕

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は包括して刑法二五三条に、判示第二の所為は同法六〇条、法人税法一五九条一項に該当するところ、判示第二の罪について所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役五年六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中三三〇日を右刑に算入することとする。

(量刑の理由)

被告人の本件各犯行のうち、業務上横領の点については、その期間が三年一一か月と長期間にわたり、回数も二一四回と多数回に及び、横領金額は合計五億五三七八万円余りと高額に達し、結果は重大である。その犯行態様は、社長の押印を受けた会社の銀行預金の払戻請求書を改ざんし、あるいは金額を水増しした払戻請求書に架空の振込依頼書を添えて社長の押印を受けるといった、巧妙かつ大胆な方法によるものであり、会社の経理責任者としての地位と知識を悪用し、被告人に対する会社の信頼を裏切るもので、犯情は悪質である。また、被告人は専ら競馬等の自己の遊興費の捻出のために本件横領を敢行したのであって、動機においても同情の余地はなく、被告人の刑事責任は重大である。

次に、法人税法違反の点については、経理責任者である被告人が、藤商事の代表取締役松元道子と共謀して単年度で二八億一一六九万円余りもの巨額の法人税を脱税したものであって、ほ脱率も約七四・七パーセントと高く、重大事犯である。被告人は、会社が名古屋に建設予定の新工場の建設資金の捻出が必要であるなどと考え、本件脱税を敢行したものである。その犯行態様は、売上帳簿を改ざんするなどして売上を除外したもので、悪質である。この点からも、被告人の刑事責任は重大である。

他方、本件横領については会社との間で、前記横領金額のうち三〇〇〇万円以外については藤商事が回収不能と認めて放棄し、三〇〇〇万円については被告人の支払能力から一二五六万円を支払うことで解決する旨の示談が成立しており、実際にも一二五六万円が支払われていること、さらに被告人に有利な事情として、被告人は本件により会社を解雇され、相応の社会的制裁を受けていること、被告人には前科がないこと、被告人の実弟の小野真ら親族が被告人の今後の監督、援助を証言し、またそれが期待できること、被告人は素直に自己の罪責を認め、反省していることなどの事情が存在する。そこで、これらの事情を総合して考慮の上、被告人を主文の刑に処するを相当と思料する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中正人 裁判官 松下潔 裁判官 増田啓祐)

別紙(一) 犯罪一覧表

〈省略〉

注一 犯罪一覧表中横領方法欄の「A」について

藤商事の代表取締役であった松元道子から同社の銀行印の押印を受けた同社名義の普通預金口座の払戻請求書の金額を同表中払戻金額記載の金額に改ざんし、右改ざんした払戻請求書を使用して右普通預金口座から払戻を受けた右払戻金額の現金のうち同表中横領金額欄記載の現金を着服する方法

注二 同欄「B」について

前記一同様に藤商事の銀行印の押印を受けた同社名義の普通預金口座の払戻請求書の金額を同表中払戻金額欄記載の金額に改ざんし、右改ざんした払戻請求書を使用して右普通預金口座からの払戻手続を行い、同表中横領金額欄記載の金額を被告人の管理に係る住友銀行東大阪支店の森本登己名義の普通預金口座に振込入金する方法

注三 同欄「C」について

架空の払込依頼書を添え、水増しして同表中払戻金額欄記載の金額を記入した藤商事名義の普通預金口座の払戻請求書に前記一同様同社銀行印の押印を受け、右払戻請求書を使用して右普通預金口座からの払戻手続を行い、同表中横領金額欄記載の金額を被告人の管理に係る前記森本名義の普通預金口座に振込入金する方法

注四 同欄「D」について

振出人を藤商事、支払地を第一勧業銀行東大阪支店とする小切手の金額欄に水増しした同表中払戻金額欄記載の金額を記入し、架空の払込依頼書を添え、前記一同様藤商事銀行印の押印を受け、右小切手を使用して前記同社名義の当座預金口座からの払戻手続を行い、同表中横領金額欄記載の金額を被告人の管理に係る前記森本名義の普通預金口座に振込入金する方法

別紙(二) 修正損益計算書

〈省略〉

別紙(三) 税額計算書

〈省略〉

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